新型コロナウイルスに関する情報の錯綜について
こんにちは。仁愛会歯科武蔵小杉クリニックの秀島です。
現在新型コロナウィルスに関する情報が溢れ、どの情報を信じ行動すれば良いのか、判断が難しく感じることも多いかと思います。
多くの歯科医院が新型コロナウィルスが猛威をふるう中、治療だけではなく物資の不足、人事や財務危機、様々な対応に追われながら診療をされていることかと思います。この危機を乗り越えるためにも歯科医療従事者が一致団結し、国民への安心安全な治療を提供していけるよう協力していきたいと考えています。
そのような状況で一部の報道やSNSなどで出た、歯科治療の前線で戦う歯科医師をはじめ歯科衛生士や歯科助手が感染のリスクが高いという情報(グラフ)を多くの方が目にしたことかと思います。
今回はこの報道された内容を少し解説させていただきます。
先に断っておきますが、歯科医院にきて治療をすることにリスクがないと言いたいのではありません。
外出して他人と接触する事、何かに触れてしまうかもしれないなど、リスクはあります。当医院でも診療規模を縮小し、スタッフの出勤を調整し、できるだけ治療の延期を行っている状況です。
また厚生労働省からも歯科医療従事者が感染のリスクが高いというエビデンスはないとしています。
後述−−4月24発表された神奈川県内663件の歯科医院での感染者報告数載せています。
報道された『職種別の感染リスク』のグラフが医学的な根拠が無いにもかかわらずそれを事実かのように扱う報道機関、また医療従事者がこのような情報に対して不安に感じてSNSに投稿したりしている現状がありますので、歯科業界に携わる人の尊厳のために情報を発信したいと思った次第です。
大きな転機となったのはニューヨークタイムズから出たこの記事をネットニュースやテレビ番組などでとりあげたことです。
もとデータはこちら→
https://www.nytimes.com/interactive/2020/03/15/business/economy/coronavirus-worker-risk.html
和訳され紹介されました。
グラフの縦軸と横軸をチェックしてみてみましょう。
このグラフは「職種別感染リスクのグラフ」と言えるのでしょうか?
はたして歯科医療従事者が感染リスクが高いと言えるのでしょうか?
縦軸の「Exposure to diseases」テレビで用いられた和訳を使うと「疾患にさらされる頻度」
記事中の縦軸の説明は以下
The vertical position of each bubble is a measure of how often workers in a given profession are exposed to disease and infection.
ここでの疾患はもちろん新型コロナウィルスです。
次に横軸の「Physical proximity to others」「他者との物理的距離」です。
記事中の横軸の説明は以下
The horizontal position is a measure of how close people are to others during their workdays.
①疾患にさらされる頻度 と ②他者との物理的距離 この2つが今回のコロナウィルス感染において重要なファクターである事に異論はありませんが、いくつもあるファクターのうちの一部にすぎないのは一目瞭然だと思います。
今回のグラフはたった2つのファクターのみで結論付けていて根拠に欠けると思います。
また今回のグラフにある①疾患にさらされる頻度とはどのような状況を指しているのでしょうか?
歯医者へ来院された方には検温も問診も当然のことながら行っています。もちろん無症状の感染者の存在も否定できませんが、すべての状況に言えることかと思います。往来している方々の健康状態を確認できないなか、歯科医院では来院時に検温や問診を行っているため、発熱や咳など症状ある人がいらっしゃることはありませんので「疾患にさらされる頻度」が高いとは考えにくいと思います。
実際に歯科医療従事者は感染リスクが高いかどうかは新興感染症であるあるため現時点で答えを出せる人はいないと思います。しかしながら日本とNYではまったく感染状況が異なるにもかかわらずニューヨークタイムズが出した記事をだして歯医者は感染リスクが高いと結論付けてしまうのは早計かと思います。
この記事を執筆した方は過去にもグラフを用いた記事を多用していますが、医学的な論文などは執筆していないようです。そもそも医療関係者ではありません。そして今回も、縦軸と横軸で単にデータを組み合わせて出来たグラフという感じがします。
グラフでは考慮されていませんが、歯科医院ではスタンダード・プリコーション(標準感染予防策)を実施しています。
歯科医院ではHIVや肝炎ウィルス、インフルエンザなど全ての感染症に対応すべくマスク・ゴーグル、グローブの着用など感染予防を疾患の有無に関わらず全数徹底して治療にあたっています。
そのような中で歯科医療従事者は過去にインフルエンザや他の感染症にかかる人が多かったのでしょうか? 今回の新型コロナウィルスも、他のもっと感染力が強いウィルス感染症と戦ってきた歯科医院という特殊な環境の中では感染リスクが高いとは言えないように感じます。(あくまでも患者さんから歯科医療従事者への感染という観点です)
神奈川県内歯科医院663件の調査結果がIOS(包括的矯正歯科研究会)から報告されました(4/24)
新型コロナ感染が発生した医院:0件(663件中)全体の0%
自主休診をされている医院:9件((663件中)全体の1.3%
診療時間の短縮をされている医院:54件(663件)全体の8.1%
ショッピングモールなどに入っているクリニックがモールの閉鎖とともに休診されているのではという印象です。腫れて痛い、入れ歯が壊れた、痛くて噛めないなど食事がとれなくなる方は常に一定数いらっしゃいます。
とあるSNSでは『うちのクリニックはこんな状況なのにクリニックを閉めない』など従業員が投稿しているのを見受けられます。歯科医院がすべて休診したらどうなるか想像しましょう。全てでなくても多くが休診したらどうなるでしょうか。
ちなみに東京都では歯科医院2500件調査し(4/11発表)
新型コロナ感染が発生した医院:1件(2500件中)全体の0.04%だったようです。
この1件も後に外部で感染した可能性が高いことが分かっており、歯科医院の患者さんの中には現時点で感染者は出ていないようです。
最終的な感染リスク調査は今回のコロナ禍が終息した後になるとは思いますが、このような数値を見ても歯科医院で働く人は感染リスクが高いのでしょうか?
もちろん来院するために外出し、他人との接触があるという点では不要不急の治療は延期という基本原則は大切にする必要があると思います。
一部歯科医療従事者の感染報告はニュースでありましたが、いずれも感染者とクリニック外で接触したことなどが原因と考えられているようです。
また、クラスターが発生したケースでは院内でのスタッフ同士の感染と考えられています。
このような事象を踏まえ当院では治療が終わりお昼休憩などの際、3密を避けるよう心掛けています。
医療物資が不足している中で各医療機関様々な工夫をして感染予防に取り組んでいることと思います。しかし、過剰防衛しすぎないことも必要です。過剰防衛は最前線で戦う医療機関への物資の遅れにつながることに留意する必要があります。
このような状況の終息を迎えるためにも今こそ国民すべてが、そして医療機関同士もクリニックや科を超えて協力しあって乗り越えていかないといけないと強く感じます。新型コロナウィルスによって他の重大な疾患の治療がストップし続けるのは、多くの国民の不利益になります。外出自粛が長引き緊張の糸が切れてしまいそうになりますが、再度気持ちを引き締め直して終息を待ちたいと思います。
最後に通院中の方や定期検診に行くか迷っている方はこちらを参考にしてください。
https://www.jin-ai-kai.com/musashikosugi/info.html
また症状があるがクリニックに行くべきなのかわからないという方はLINEでご相談可能です。写真などを送ってもらえるとより詳しくお答えできるかと思いますので活用してください。
執筆者 院長 秀島 学
この記事の内容は2020年4月29日現在分かっていることをもとに執筆しております。
刻々と変わる情報などもありますのでご了承ください。
《参考》
人との接触8割削減の根拠(わかりやすく動画です)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html
新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査(武漢からのウィルスは抑え込みに成功していることが分かります)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html
空気感染を否定する論文 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2007942
歯科医院感染状況(こちらはあくまでも調査) https://www.ios-public.com
防護服やマスクの特例での再利用について(厚労省からでましたが参考が米国CDCです)
https://www.jda.or.jp/dentist/coronavirus/upd/file/20200415_coronavirus_reigaitekitoriatukai.pdf
アルコールを用いたマスク再利用の危険性 (論文にする時間がなく緊急提言というかたち)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565271.html
N95とサージカルマスクにおいてインフルエンザの場合は感染リスクに差がなかった
http://www.kameda.com/pr/ccmc/post_198.html
カテゴリー:スタッフブログ ,武蔵小杉
投稿日:2020年5月1日